Builder's Life 3-フレーム製作1。ザグリ
フレーム製作を始めるにあたって、まず最初に覚えたのはチューブの線引きとザグリ(チューブ加工)であった。
線引きとはチューブの反りをチェックし、凸側に1本の線を引く(けがく)ことである。その凸側をフレームにした際に上下にくるようにし、フレームの軸を通すために行う工程である。(この線引きをしている工房は恐らく他にはないかもしれない。) TT、ST、DTそれぞれこの線引きを行う。
そしてその線を基準にそれぞれのチューブを図面どうりになるよう加工するわけである。
チューブをカットする際、Level では全て鉄製の長い定規を使用し、目で読み、けがき(しるしをつける)カット、そしてザグリを行っていた。ザグリ終わった後のチューブの長さの狂いの許容範囲は0.3mm(当時)であった。 自分が加工したチューブを社長の松田さんがロウ付けする際に確認の意味で計測する。このとき0.4mm以上の狂いがある場合はザグリなおしをしなければならなかった。
目で計測するという事がどういう事か、どれほど正確なのか。。。
経験すれば自ずと理解できる事であるが、長年の経験によりそれは正確という言葉が相応しいくらい正確に読める。 幸い自分は建築設計で設計図面の製作経験があったので、この目でメモリを正確に読むという事に抵抗はまったく無かった。
例えば435.7mmという寸法があったとする。この際、435mmまではだれでも読める。問題はその後の0.7mmをどう読み取るかである。まず1mmを半分にし0.5mmずつに分ける。そしてさらに半分にわけることで0.25mm単位で読めるわけである。.7mmは435.5mmと436mmの中間やや435.5mmよりという事になる。(分けるといっても全て目で読むのだが)
建築設計の図面上で1mmの間に4本の線を引かなければならないこともしばしばあったが、この経験がこんなところで生きるとは正直思わなかった。おかげで寸法違いによるミスカットはほとんどなかっとように思う。
Level では正確さと言うのが一つの売りであった。(KUALISで正確さを大事にするのはここでの経験によるところが大きい。)
正確に作るということが一体どれほど重要なのだろうか?
こんなことがあった。
ある成績の良い競輪選手のフレームを製作したときのことである。フレームが出来上がりペイントされてシッピングされたのだが、数日の内にそれが送り返されてきた。箱を開けるとフレームと共に1通の手紙が入っていた。 本人曰く、何かがいつもと違います。(この選手はいつもLevelで同じフレームをつくっていた)いつもより窮屈感がどうしてもあります。TT 長がいつもより短くないでしょうか? というのである。早速フレーム冶具にフレームをセットし、全員で計測してみたところ確かに2mm 図面の数値より短かったのである。
競輪選手の多くは使用するパーツ類は大体いつも一緒。ハンドル、ステムは決まった長さ角度でセッティングし、サドルとシートポストも固定されている。要はそれらのパーツをフレームから引っこ抜き、新しいフレームにまた同じようにセットする、、、といった具合である。
2mmの差に気づくのは競輪選手位であろう。彼らは自転車を食べていくための道具として使用する。結果、自分の自転車のフレームに関しては人一倍神経質になる選手もかなり多い。それだけシビアなのである。一般のロードレーサーであればこの差はほぼ気づかない数値ではあるが。
なめてかかってはいけないな、と思った。競輪選手に限らず全てのカスタマーに対して正確に作るという事は最低条件であると感じた。何かが曖昧あるいはいい加減になるとその少しずつのいい加減が積み重なり、最終的に本当に見た目だけで中身はいい加減なものになってしまう。
正確にものを作るということは、カスタマーに対する作る側からの一つの最低限の誠意であるかもしれない。この誠意と言うものが感じられなくなってしまうと、いいものは出来なくなってしまう気がする。
つづく
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